2015.9.11 岐阜県個人情報保護審査会 「答申」


 以下の2015年9月11日付け岐阜県個人情報保護審査会「答申」は、 K藤に関するものであるが、当事者4名に対してほぼ同内容なので、そのままテキスト化して掲載する。

(答申第32号)

                                 答    申

 

第1  審査会の結論
 岐阜県警察本部長(以下「実施機関」という。)が行つた、(株)シーテックとの意見交換等に係る特定個人に関する情報の存否を明らかにしないで非開示とした決定は妥当である。

 

 

第2  諮問事案の概要

 

1. 個人情報開示請求

(1) 審査請求人は、岐阜県個人情報保護条例(平成10年岐阜県条例第21号。以下「条例」」という。)第16条第1項の規定に基づき、平成26年7月31日付けで、次のとおり個人情報開示請求(以下「本件開示請求」という。)を行つた。
(2) 本件開示請求の内容
ア 2014.7.24付朝日新聞で報道された岐阜県警内警察署と(株)シーテックとの「意見交換」「協議」に係る情報
イ 岐阜県大垣警察署(以下「大垣署」という。)が(株)シーテックに、私の「評価」を伝えるにあたつて、調査・分析の対象とした情報の一切


2. 実施機関の決定
 実施機関は、対象となる個人情報が条例第15条の2に該当すると判断し、開示請求のあつた保有個人情報の有無に関する情報は、これを開示することにより、警察が特定の個人に係る情報を収集しているか否かが明らかとなり、警察の情報収集活動に支障を及ぼすおそれがあるため、条例第14条第5号に該当し、かつ、本件開示請求に係る保有個人情報が存在しているか否かを答えるだけで、非開示情報を開示することとなるため、当該保有個人情報の存否自体を回答できないとの理由を付して個人情報非開示決定(以下「本件処分」という。)を行い、平成26年8月14日付け備一第680号及び平成26年8月18日付け備一第683号により審査請求人に通知した。

 

3. 審査請求
 審査請求人は、本件処分を不服として、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)第5条の規定に基づき、平成26年10月10日付けで、岐阜県公安委員会(以下「諮問庁」という。)に対して、審査請求(以下「本件審査請求」という。)を行つた。


4. 諮問
 諮問庁は、条例第24条第1項の規定に基づき、平成26年11月7日付け岐公委(備一)第5号で、本件審査請求に対する裁決について、岐阜県個人情報保護審査会(以下「審査会」という。)に諮問した。

 

 

第3  審査請求人の主張

 

1. 審査請求の趣旨
 本件処分を取り消し、審査請求人の個人情報を全面的に開示することを求める。


2. 審査請求の理由
 審査請求人が、審査請求書及び意見書において主張する審査請求の理由は、おおむね以下のとおりである。
(1)条例第14条第5号該当性について
ア 「犯罪の予防」について
 条例第14条第5号の未然に防止すべき「犯罪」とは、一般的・抽象的なおそれが認められるだけでは足りず、犯罪の発生が「明白かつ差し迫つた現在の危険」として存在することが必要である。
 本件の風力発電施設に反対する運動及び審査請求人の個人情報は、何ら具体的な犯罪と関わるものではない。
 そのうえ、警察の情報収集活動及び(株)シーテックヘの情報の提供が、具体的な犯罪とどのように結びついているのか一切説明されておらず、警察の情報収集活動は、犯罪の予防、鎮圧又は捜査等を目的とするものではなく、その他明らかにされていない何らかの目的によるものであると解さざるを得ない。
 そうすると、本件請求に係る保有個人情報に、犯罪の予防等を目的とする情報収集活動における「着限点や手法等に関する情報」が含まれているという実施機関の主張は失当である。
イ 「専門的・技術的判断」について
 仮に、警察による情報収集と情報の提供が、何らかの意味で犯罪の予防等に関わるものであるという説明がなされたとすると、その場合、理由説明書のいう「高度な専門的・技術的判断」が意味を持つてくる可能性がある。
 しかし、「専門的・技術的判断」がいかなる事実を根拠とした判断であるのか、全く説明はなされておらず、全く不明である。
 判断の根拠及び過程を全く示すことなく「高度な専門的・技術的判断」とだけ言う実施機関の主張は失当である。
 また、諮問庁の再反論として、「専門的・技術的判断の根拠となる事実及び判断過程を説明することは、結局は犯罪予防等に係る警察の情報収集活動の着眼点等を明らかにするに他ならない。」旨の主張が予想される。
 しかし、条例は「警察本部長」の保有する個人情報をも開示の対象としているのであるから(条例第2条第2号、第14条等)、上記のような主張は条例が制定されている以上、とりえないものである。
ウ 「相当の理由」について
 条例第14条第5号の「相当の理由」について、理由説明書では、この点は一切触れられていない。ただ、「警察の情報収集活動の対象(又は方針、関心事項)等に関する情報」であり、「相当の理由がある情報と認められる」と言っているにすぎない。
(2) 条例第15条の2該当性について
 そもそも、本件保有個人情報は上記のとおり条例第14条第5号に該当しない。
 また、警察は、(株)シーテックと情報交換を行ったことを認めており、(株)シーテック作成の議事録が存在していることから、実施機関が審査請求人の個人情報を保有していることは明らかになつている。
(3)その他の主張について
 (株)シーテック作成の議事録によれば、収集した情報から導き出したと思われる審査請求人に対する「評価」に関する情報が記載されている。実施機関が審査請求人の個人情報を収集し、私企業に情報提供したことは、違法不当な行為である。

 

第4 諮問庁の主張

 

 諮問庁が、理由説明書及び口頭意見陳述において主張しているところは、おおむね以下のとおりである。

 

1.趣旨

 本件審査請求を容認しない旨の答申を求める。

 

2.本件対象個人情報の性質

 審査請求人が引用する「2014.7.24付 朝日新聞」の報道内容を確認したところ、風力発電施設建設をめぐり、警察が特定の個人に関する情報を特定の企業に漏えいしたとされる記事が掲載されていたことから、本件開示請求は、特定の企業に漏えいしたとされる審査請求人の情報について求めたものであると判断できる。
 したがつて、仮に当該請求に係る個人情報が存在するとすれば、当該請求に係る個人情報は、特定の個人に対する警察の情報収集活動に係る情報ということができ、このような個人情報には、当然のこととして、特定の個人が警察の情報収集活動の対象とされているか否かに関する情報が含まれているほか、警察の情報収集活動の着眼点や手法等に関する情報が記載されていることとなる。

 

3.条例第14条第5号該当性について
 犯罪の予防、捜査等に関する情報については、その性質上、開示されれば公共の安全や秩序の維持に取り返しのつかない重大な支障を及ぼすおそれがあるため、最悪の事態を想定した慎重な取扱いが求められることや、開示・非開示の判断に犯罪等に関する将来予測としての高度な専門的・技術的判断を要することなどの特殊性が認められるべきである。
 特定の個人が警察の情報収集活動の対象とされているか否かは、警察の情報収集活動の対象(又は方針、関心事項)等に関する情報であり、これが明らかになることによつて、警察の情報収集活動の実態が露呈されることになる。
 一般に、警察が情報収集の対象としているかどうかが明らかになると、情報収集の相手方が、情報収集活動の存在を前提として活動することになり、情報収集の対象とされていない場合、そのことを契機として、公共の安全や秩序を害する行為が企図されたり、公共の安全や秩序を害する行為を企図していた者が、その行為に及ぶ可能性が高まるという弊害が考えられる。
 また、施設建設への反対運動の動きがあれば、それに関連して不法行為が発生することが考えられる。反対運動をしている側が群集心理で何らかの行為に及ぶこともあれば、反対運動する人々への攻撃もあり、現場での衝突などの事態に備え、推進する側、利害関係者等の動きなどを見ていく必要があることから、警察としては、こうした可能性がある限り、関係者の犯罪歴の有無などにかかわらず、関係情報は収集するものである。過去には、施設建設に関連して関係者が襲撃されたと考えられる事例もある。
 したがつて、本件については、犯罪の予防、鎮圧又は捜査等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報と認められることから、条例第14条第5号に該当すると判断したものである。


4  条例第15条の2該当性について
 本件開示請求のように、特定の個人に対する瞥察の情報収集活動に係る個人情報について開示請求が行われた場合は、当該個人情報の存否を答えるだけで、特定の個人が警察の情報収集活動の対象とされているか否かという事実が判明し、警察の情報収集活動の対象(又は方針、関心事項)等が明らかとなるため、公共の安全や秩序を害する行為を企図する者において、各種活動を潜在化、巧妙化させるなどの防衛措置を講じられるという弊害が生じ、条例第14条第5号に規定する犯罪の予防、鎮圧又は捜査等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報を開示することとなる。
 したがつて、本件開示請求に対しては、条例第15条の2を適用し、非開示決定(存否応答拒否)を行つたものである。

 

5. 審査請求人の主張について
(1)「条例第15条の2、第14条第5号の適用は失当である」との主張について審査請求人は、「犯罪」とは無縁である、「情報が存在する」ことは公知の事実となつている旨主張している。
 しかしながら、前記のとおり、本件開示請求に対しては、条例第14条第5号及び同第15条の2の適用が妥当であり、審査請求人の主張は理由がない。
(2)その他の主張について
 7月24日付け朝日新聞による報道等を踏まえ、岐阜県警察において本件について確認したところ、大垣署署員が(株)シーテック担当者と会っていたことは確認されたが、これは、公共の安全と秩序の維持という責務を果たすうえで、通常行つている警察業務の一環であると判断しており、審査請求人の主張は、本件処分の判断を左右するものとは認められない。
また、(株)シーテック作成の議事録は、実施機関が作成したものではない。

 

6. 結論
以上のことから、条例第15条の2の規定に基づいて行つた本件処分は妥当なものであると認められることから、諮問庁としては、本件処分は適当と考える。

第5 審査会の判断


 当審査会は、本件諮問事案について審査した結果、以下のように判断する。


1. 請求対象個人情報について
 本件開示請求に係る対象個人情報は、「2014.7.24付朝日新間で報道された岐阜県警内警察署と(株)シーテックとの「意見交換」「協議」に係る情報」及び「大垣署が(株)シーテックに、私の「評価」を伝えるにあたつて、調査・分析の対象とした情報の一切」である。
 (株)シーテックによる風力発電施設の建設が計画されていることは公知の事実であり、また、(株)シーテック担当者と大垣署署員とが会つていたことについては、実施機関も認めており、争いがない。


2.本件処分の妥当性について
 実施機関は、本件対象個人情報の存否を答えるだけで、条例第14条第5号に該当する情報を開示することになるとして、条例第15条の2の規定により、本件対象個人情報の存否を明らかにせず、非開示とする決定を行つたものである。
 存否応答拒否を内容とする非開示決定が妥当というためには、仮に対象個人情報が存在する場合であつても当該情報が非開示情報に該当することが必要であることから、まず、対象個人情報が条例第14条第5号の非開示事由に該当するかどうか、次に、条例第15条の2に基づき存否を明らかにせず、非開示とする決定を行ったことが妥当かどうかについて、条例の規定に照らし、以下、順に判断する。
(1)条例第14条第5号について
条例第14条第5号の趣旨について
 条例第14条第5号は、開示することにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報については、開示しないことを定めたものである。同号にいう「実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」とは、審査の場においては、実施機関の第一次的な判断を尊重し、その判断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものであるか否かを判断するものであることを示すものである。
 これは、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報については、その性質上、開示・非開示の判断に、犯罪等に関する将来予測としての専門的・技術的判断を要することなどの特殊性が認められるためである。
条例第14条第5号該当性について
 本件開示請求に係る対象個人情報は、(株)シーテックと大垣署との意見交換に関する情報等であり、仮に存在するとすれば、特定の個人に対する瞥察の情報収集活動に係る情報であると認められる。
 特定の個人が警察の情報収集活動の対象にされているか否かは、警察の情報収集活動の対象(又は方針、関心事項)等に関する情報であり、これを開示することにより、警察の情報収集活動の対象(又は方針、関心事項)等警察の情報収集活動の実態が明らかとなるおそれがある。
そして、警察の情報収集活動の実態が、情報収集の相手方の知るところとなれば、情報収集活動自体の遂行が困難になるばかりか、情報収集の相手方が、情報収集活動の存在を前提として活動することにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすこととなると考えられる。
 また、一般に施設建設の動きがあれば、これに賛成する側、反対する側の対立が生じ、関係当事者の対応いかんによつては、その対立が激化し、それに関連して不法行為が発生すれば、場合によつては、加害者にも被害者にもなり得ることが考えられる。
 実施機関としては、こうした事態が生じないよう、警備や安全対策を行つているところ、特定の個人が情報収集の対象とされているかどうかが明らかにされることとなれば、こうした実施機関の対策が有効に機能しなくなり、不測の事態に備えた効果的な警備や安全対策が十分に実施できなくなるなどの支障が生じ、ひいては、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると考えられる。
 風力発電施設建設の計画が具体的に存在する本件において、警察の情報収集活動の実態が明らかにされた場合、不測の事態に備え、地域の安全確保、秩序維持の観点から実施機関が行う安全対策が有効に機能せず、結果的にこうした不測の事態に発展するおそれがないとは言えず、犯罪の予防、筑圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると、実施機関が認めることにつき相当の理由があると考えられる。
 よって、実施機関が条例第14条第5号に該当するとした判断は、合理性を持つ判断として許容される限度を超えているとは言えず、妥当である。
(2)条例第15条の2について
条例第15条の2の趣旨について
 条例第15条の2は、「開示請求に対し、当該開示請求に係る個人情報が存在しているか否かを答えるだけで、非開示情報を開示することとなるときは、実施機関は、当該個人情報の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒むことができる。」と規定している。
 同条の「当該開示請求に係る個人情報が存在しているか否かを答えるだけで、非開示情報を開示することとなるとき」とは、開示請求に係る個人情報が具体的にあるかないかにかかわらず、開示請求された個人情報の存否について回答すれば、非開示情報を開示することとなる場合をいうものである。
 これは、個人情報の存否を明らかにすることによつて、条例第14条各号に規定する非開示情報が開示されることと等しい結果をもたらすことにより、同条各号により非開示とすることで保護しようとする利益が損なわれる場合があるため、このような場合には、例外的に、個人情報の存否を明らかにしないで開示請求を拒否することができることとしたものである。
条例第15条の2該当性について
 前記「(1)イ 条例第14条第5号の該当性について」の判断のとおり、当該個人情報の存否を答えることは、審査請求人が警察の情報収集活動の対象とされているか否かを明らかにする結果を生じさせるものと認められ、本件開示請求に係る対象個人情報については、その存否を答えるだけで条例第14条第5号の非開示情報を開示することとなるため、実施機関が、条例第15条の2の規定により、その存否を明らかにしないで本件開示請求を拒否したことは妥当である。
 一方、審査請求人は、(株)シーテック作成の議事録の存在とその記載内容をもつて、実施機関が審査請求人の個人情報を保有していることは明らかであり、存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定が失当である旨主張することから以下検討する。
 確かに、(株)シーテック作成の議事録が存在し、当該議事録には審査請求人の個人情報が記載されていることが認められる。
 しかし、条例に基づく開示請求の対象となる個人情報とは、「当該実施機関の保有する公文書に記録されている自己の個人情報」であるから(条例第13条第1項)、(株)シーテック作成の議事録が存在するからといつて、実施機関が公文書に記録されている審査請求人の個人情報を保有していることが、明らかであるとは言えない。
 したがって、実施機関が、条例第15条の2の規定により、その存否を明らかにしないで本件開示請求を拒否したことは妥当であると認められる。


3  結論
 審査請求人のその余の主張は、当審査会の上記判断を左右するものではなく、「第1 審査会の結論」のとおり判断する。

 

4 付言
 当審査会の結論は以上のとおりであるが、以下の点について付言する。
大垣署の署員が(株)シーテックの職員と面会し、(株)シーテックによつて作成された議事録には、審査請求人に関する個人情報が記載されていることが認められる。
 実施機関においては、なぜこのような議事録が作成されるに至ったのか原因を究明することに加え、個人情報の取扱いが適切であつたのか実態把握を行うとともに、その結果を 踏まえ、必要に応じて適切な措置を講じられたい。

 

 

第6  審査会の処理経過
 審査会は、本件諮問事業について、以下のように審査を行つた。