2015.10.9  岐阜県公安委員会「裁決書」(共通部分)


審査請求人     (M輪、M島、K藤、F田/別個に)       
処 分 庁  岐阜県警察本部長

 

 上記審査請求人から平成26年10月10日付けをもって提起された、岐阜県個人情報保護条例(平成10年岐阜県条例第21号。以下「条例」という。)第17条第1項の規定による個人情報非開示決定処分(以下「本件処分」という。)に対する審査請求については、次のとおり裁決する。

 

 主 文
 本件審査請求はこれを棄却する。

 

 審査請求の要旨

 本件審査請求は・・・審査請求人が行った『2014.7.24付 朝日新聞で報道された岐阜県警内警察署と(株)シーテックとの「意見交換」「協議」に係る情報』・・・を内容とする個人情報開示請求(以下「本件開示請求」という。)に対し、処分庁が、…対象となる個人情報は存在するとしても条例第14条第5号に該当し、かつ、本件開示請求に係る保有個人情報が存在しているか否かを答えるだけで、非開示情報を開示することとなるため、条例第15条の2に該当することから、当該保有個人情報の存在自体を回答できないとの理由を付して行うた本件処分について、次の理由により、本件処分を取り消し、審査請求人の個人情報を全面的に開示することを求めるものである。
  ・本件の風力発電施設に反対する運動及び審査請求人の個人情報は、何ら具体的な犯罪と関わるものではない上、警察の情報収集活動及び(株)シーテックヘの情報提供が、具体的な犯罪とどのように結びついているのか説明がなく、条例第14条第5号に定める相当な理由が説明されていない。
  ・警察は、(株)シーテックと情報交換を行つたことを認めており、(株)シーテック作成の議事録が存在していることから、審査請求人の個人情報を保有していることは明らかであり、条例第15条の2に該当しない。

 

 裁決の理由

 当委員会は、本件審査請求に対し、条例第24条第1項の規定に基づく岐阜県個人情報保護審査会に対する諮問を経て審理を行つた結果、行政不服審査法第40条第2項の規定を適用し、主文のとおり裁決する(同諮問に対する答申については、「岐阜県個人情報保護条例第24条第1項の規定に基づく諮問について(答申)」(平成27年9月11日付け答申第32号)のとおり。)。
 なお、裁決の理由は次のとおりである。


1  本件開示請求の性質について
  本件開示請求について、審査請求人が引用する「2014年7月24日の朝日新聞」の報道内容を確認したところ、風力発電施設建設をめぐり、警察が特定の個人に関する情報を特定の企業に漏洩したとされる記事が掲載されていたことから、本件開示請求は、特定の企業に漏洩したとされる審査請求人の情報について求めたものであると判断できる。
  したがつて、仮に当該請求に係る保有個人情報が存在するとすれば、当該請求に係る保有個人情報は、特定の個人に対する警察の情報収集活動に係る情報ということができ、このような保有個人情報には、当然のこととして、特定の個人が警察の情報収集活動の対象とされているか否かに関する情報が含まれるほか、警察の情報収集活動の着眼点や手法等に関する情報が記載されていることとなる。

 

2  条例第14条第5号について
  (1) 条例第14条第5号の趣旨について
   条例第14条第5号は、「開示することにより、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」を非開示情報として規定している。
   同号にいう「実施機関が認めることにつき相当の理由がある情報」とは、審査の場においては、実施機関、すなわち処分庁の第一次的な判断を尊重し、その判断が合理性を持つ判断として許容される限度内のものであるか否かを判断するものであることを示すものである。
   これは、犯罪の予防、鎮圧又は捜査、公訴の維持、刑の執行その他の公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報については、その性質上、開示・非開示の判断に、犯罪等に関する将来予測としての専門的・技術的判断を要することなどの特殊性が認められるためである。
  (2)条例第14条第5号該当性について
   特定の個人が警察の情報収集活動の対象とされているか否かは、警察の情報収集活動の対象(又は方針、関心事項)等に関する情報であり、これが明らかになることによって、犯罪の予防、鎮圧又は捜査等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある。
   また、一般に施設建設の動きがあれば、これに賛成する側、反対する側の対立が生じ、関係当事者の対応如何によっては、その対立が激化し、それに関連して不法行為が発生すれば、場合によっては加害者にも被害者にもなり得ることが考えられる。
   処分庁としては、こうした事態が生じないよう、警備や安全対策を行っているところ、特定の個人が情報収集の対象とされているかどうかが明らかにされることとなれば、こうした処分庁の対策が有効に機能しなくなり、不測の事態に備えた効果的な警備や安全対策が十分に実施できなくなるなどの支障が生じ、ひいては、犯罪の予防、鎮圧又は捜査等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある。
   風力発電施設建設の計画が具体的に存在する本件において、警察の情報収集活動の実態が明らかにされた場合、不測の事態に備え、地域の安全確保、秩序維持の観′点から処分庁が行う安全対策が有効に機能せず、結果的にこうした不測の事態に発展するおそれがないとは言えず、犯罪の予防、鎮圧又は捜査等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがあると、処分庁が認めることにつき相当の理由があり、条例第14条第5号に該当すると判断したものである。

 

3  条例第15条の2について
  (1)条例第15条の2の趣旨について
   条例第15条の2は、「開示請求に対し、当該開示請求に係る個人情報が存在しているか否かを答えるだけで、非開示情報を開示することとなるときは、実施機関は、当該個人情報の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒むことができる。」と規定している。
   これは、本件開示請求のように、特定の個人に対する警察の情報収集活動に係る保有個人情報について開示請求が行われた場合は、当該保有個人情報の存否を答えるだけで、特定の個人が警察の情報収集活動の対象とされているか否かという事実が判明し、警察の情報収集活動の対象(又は方針、関心事項)等が明らかとなり、条例第14条第5号に規定する犯罪の予防、鎮圧又は捜査等公共の安全と秩序の維持に支障を及ぼすおそれがある情報を開示することと等しい結果をもたらすため、同条各号により非開示とすることで保護しようとする利益が損なわれる場合には例外的に、個人情報の存否を明らかにしないで開示請求を拒否することができることとしたものである。
  (2)条例第15条の2該当性について
   前記「1(2)条例第14条第5号該当性について」の判断のとおり、当該個人情報の存否を答えることは、審査請求人が警察の情報収集活動の対象とされているか否かを明らかにする結果を生じさせるものと認められ、本件開示請求に係る対象個人情報については、その存否を答えるだけで第14条第5号の非開示情報を開示することとなるため、処分庁が、条例第15条の2の規定により、その存否を明らかにしないで本件開示請求を拒否したことは妥当である。
   なお、審査請求人は、(株)シーテック作成の議事録の存在とその記載内容をもって、処分庁が審査請求人の個人情報を保有していることが明らかであり、存否を明らかにしないで開示請求を拒否した決定は失当である旨主張しているが、条例に基づく開示請求の対象となる個人情報とは、「当該実施機関の保有する公文書に記録されている自己の個人情報」であるから(条例第13条第1項)、(株)シーテック作成の議事録が存在するからといって、処分庁が公文書に記録されている審査請求人の個人情報を保有していることが明らかであるとは言えない。


4  本件処分の妥当性について
   上記のとおり、審査請求人から開示請求のあった保有個人情報の有無に関する情報は、これを開示することにより、警察が特定の個人に関する情報を収集しているか否かが明らかとなり、警察の情報収集活動に支障を及ぼすおそれがあるため、条例第14条第5号に該当し、かつ、本件開示請求に係る保有個人情報が存在しているか否かを答えるだけで、非開示情報を開示することとなるため、処分庁は、条例第15条の2に該当することを理由に本件処分を行つたものであり、本件処分については妥当であると認められる。

 

 

              平成27年10月9日

                                 岐阜県公安委員会